札幌大通地下ギャラリー 500m美術館

第8回札幌500m美術館賞

Award

500m美術館では、2019年度も現代アートの作品プランおよび企画プランのコンペティシ「第8回 札幌500m美術館賞」を実施します。
500m美術館のガラスケース(幅12,000mm × 高さ2,000mm × 奥行650mm)2基、全長24mの作品展示プランを募集。アーティストの個展、キュレーターによる企画展、作家同士のグループ展など、ガラスケース2基の空間を生かしたプランの中から4組を選出。二次審査を通過した入選者4組には「500m美術館賞入選展」として、500m美術館に実際に展示していただきます。展覧会初日に審査し、その中から1組をグランプリに選出します。
たくさんのご応募をお待ちしております。


■ゲスト審査員
服部浩之(インディペンデントキュレーター・秋田公立美術大学大学院准教授・第58回 ヴェネチア・ビエンナーレ 国際美術展日本館キュレーター)

■審査員
三橋 純予(北海道教育大学岩見沢校美術文化専攻教授)
吉崎 元章(札幌文化芸術交流センターSCARTS プログラムディレクター)

■募集期間
2019年7月15日(月)~2019年9月23日(月)[必着]

■第8回 札幌500m美術館賞入選展 会期
2020年1月25日(土)~2020年3月25日(水)

■制作費
二次審査を通過された4組に各20万円

■賞金
4組の中からグランプリに選出された1組には賞金20万円

■応募から展示までの流れ(予定)
1 応募開始   2019年7月15日(月)
2 応募締切   2019年9月23日(月)[必着]
3 一次審査   2019年9月下旬頃
4 二次面接審査 2019年10月中旬〜下旬(10:00〜)
5 作品設営期間 2020年1月21日(火)~1月24日(金)10:00-17:00(4日間)
6 展覧会期間  2020年1月25日(土)~3月25日(水)
7 搬出撤去   2020年3月26日(木)27日(金)10:00-17:00(2日間)

※一次審査通過者にのみ9月下旬までにメールで通知
※二次審査に通過した入選者4組は11月上旬に500m美術館のホームページで告知

応募方法

応募方法・応募要項等に関する詳細につきましては、下記リンクよりダウンロードしてください。


応募先・お問合せ

有限会社クンスト(担当:佐野)

メールでの応募・お問合せ ※原則メールで応募してください。やむをえない場合は郵送も可。
※必ず応募要項をよくご確認の上、ご応募ください。

グランプリ

川田 知志

「都市の奥、Time Capsule Media」

「都市の奥」というタイトルが特定されない様々な場所を象徴しており、現代的な問題意識を感じる。とても奥行きを感じる作品で、石膏ボードという建物の内側にあるものを表に出すという意味合いも感じ、完成度が非常に高かった。
上記の理由からグランプリに決定いたしました。

■プロフィール
1987年大阪府寝屋川市生まれ。建築と都市の関わりや周辺の社会生活、それらに影響される環境への関心を軸に、壁画技法を用いた都市空間における表現行為を探求している。

■CV/経歴
2013 京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻 修了

■主な個展
2019 「確実な晴れ。」Stand Alone、浄土複合(京都)
2018 「拆(倒)」A4 ART MUSEUM(成都、中国)
   「Open Room」ARTCOURTGALLERY(大阪)

■主なグループ展
2019 「セレブレーション-日本ポーランド現代美術展-」(京都、ポズナン、シュチェチン)
   「街と、その不確かな壁と…。」あまらぶアートラボ(尼崎、兵庫)
2018 「VOCA2018」上野の森美術館(東京)
   「織り目の在りか 現代美術 in 一宮」一宮市役所庁舎内(一宮、愛知)
2017 「六甲ミーツ・アート芸術散歩 2017」 六甲山ホテル(神戸)
    アーティストインレジデンスプログラム「まちとsynergism」成果展、
    アートラボあいち(名古屋、愛知)

写真:parts of open room#元中学校カーテン、#元給食室×元履物屋、#元中学校、校章、カーテン/2019/インスタレーション/ミクストメディア/撮影:松見拓也

第8回札幌500m美術館賞グランプリ発表!

会期:
2020年1月25日(土)~3月25日(水)
時間:
7:30〜22:00
会場:
札幌大通地下ギャラリー 500m美術館 ガラスケース部分全面
住所:
札幌市中央区大通西1丁目〜大通東2丁目(札幌市営地下鉄大通駅と地下鉄東西線バスセンター前駅の地下コンコース内)

企画・作品に関する
お問い合わせ

有限会社クンスト(担当:佐野)

メールでのお問合せ

入選

大橋鉄郎

川田知志

木村充伯

西松秀祐

選評

服部浩之

インディペンデントキュレーター・秋田公立美術大学大学院准教授・第58回 ヴェネチア・ビエンナーレ 国際美術展日本館キュレーター

4名の作品はどれも質が高く、表現手法や媒体も様々でバラエティに富み、とても充実した展覧会となっています。

大橋さんは提案プランをほぼ完璧に実現し、若手ながら構想をかたちにする力があり、その完成度の高さに驚きました。また、この500m美術館で展示をする根拠も明確で、この展覧会にふさわしい作品でした。ただ、独自に組み立てたルールと論理のもとモノの立体化や配置をある程度厳密に決定しているにもかかわらず、立体で表現された大きな標識が明確な理由のないままに傾けられて設置され独特な存在感を放ち目立ってしまい、そこが惜しかったように思います。

木村さんも最初の提案をほぼそのまま実現し、完成度の高い展示となっていました。高い造形力もさることながら、パネルや角材が毛羽立つ表現は彼にしかできない唯一無二のもので、生き物のような生々しさがありました。津軽海峡を横切る動植物の境界であるブラキストン線の存在に着目し、北限となる青森の猿と南限となる北海道のヒグマをモチーフとし、人と猿やヒグマの関係に注目した着眼点は鋭かったです。しかしながら、その関係が二つのガラスケースで猿と熊を対比的に扱うに留まり単純化されてしまったため、500m美術館で展開する根拠が少し弱くなってしまいました。もう一段階深いリサーチのもと展示を組み立ててもらえればと感じました。

西松さんは、プラン段階では要素が多く、これから詳細を練っていくという感じで、完成度よりは最終的な作品の飛躍に期待をしていました。その期待通り、絞り込まれた要素によりミニマルだけれど人の想像力を喚起し、鑑賞者の脳内に風景を立ち上がらせるような展示となっていました。諸々削ぎ落としたため、なにげなく置かれた川の写真が少し浮いてしまった印象があります。写真が担うべきものを、テキストや石・石鹸で補い、もう一段階シンプルにしたほうが強度がでたのではと思いました。

グランプリを受賞した川田さんは、プラン提案時から大きな飛躍があって想像以上の作品が提示されていました。複雑な奥行きのある作品で、《都市の奥、Time Capsule Media》というタイトルも喚起力があります。大橋さんが500m美術館の真上にある特定の場に着目し、それを展示空間と結びつけて場や空間の特性に直接的に応答したのに対して、川田さんは非常に具体的な都市の日常の風景を切り出しながらも、それがどこかという場所を特定させることはなく、それによって逆に人の想像力を刺激するものがありました。破れかぶれの石膏ボードは、都市がこれから直面するであろう社会問題とそれに伴う荒廃した近い将来の風景を暗示しており、その奥に見え隠れする現在と思われる風景の危うさが強いイメージとして残りました。ところで、タイトルの一部となる「Time Capsule」は未来に掘り起こされるものです。このタイトルは、荒廃しようが私たちの生活は続くし、どんなかたちであろうと未来をなんとか手にしていかなければという未来への希望を感じさせるものもありました。絵画をベースとしながらもこれまでにない壁画のあり方を提示していることも含めて、500m美術館で展開する意義のある作品でグランプリにふさわしいと考えました。

選評

吉崎元章

札幌文化芸術交流センター SCARTS プログラムディレクター

今回展示した4人のアーティストによる入選作品は、それぞれ方向性が異なり、何を重視して評価するかによって、いずれもグランプリになり得る、オリジナリティーと完成度をもっていると感じました。

作品を見ていくうえで私が特に注目したのは、この500m美術館というかなりクセの強い場を、制約としてとらえるのではなく、いかに必然性をもって活かしているかということてす。「札幌の」「地下の」「歩行空間沿いに」「細長く連なる」「奥行65cmの」「ガラス張りの」「2つのブース」といった特性に、どのように自らの表現をかかわらせているかということです。そして、さらにそこに、コンセプトの強度と深度、現代性をどれほどもたせているかということも重視しました。

大通側からの展示順に作品について触れていきます。

大橋鉄郎の作品は、この空間の真上に広がる地上の景色をもとにしており、場所性を強くもたせたものになっています。車道を走行しながら撮影されたGoogle Viewの写真は、横長のスペースでの展示に適し、作品を歩きながら鑑賞する500m美術館の特性とも連動しています。また、前面のガラス面での展開や、立体物をその間に配置するなど、このスペースを上手に使っているという印象をもちました。さらに、表面的なところばかり装いがちな現代に対する視点にも共感します。一方、時間性に対する掘り下げや工作的処理など、コンセプトやそれを表出する方法にまだ強化できる余地があると感じました。今後の展開に大いに期待しています。

グランプリとなった川田知志の作品には、石膏ボートという素材の使い方に興味をもつとともに、そこに宿す物語性に惹かれました。石膏ボートは建築資材として壁面の下地に広く使われていますので、もしかするとこの500m美術館の壁の奥にも潜んでいるかもしれません。表面にクロスが貼られることが多いので直接目にする機会は多くはありませんが、建造物がその役目を終え取り壊される時に再び露出します。さらにそれを剥してみると、後ろには別の世界が眠っていた…。この破壊の現場は遠くはない未来なのか、向こう側に見えているのはいつのどこの景色なのかといろいろと想像が広がります。プランを見た段階では、かなり乱暴的な要素が際立つのではないかと思っていましたが、実作品は、安価な材質でスラップビルドが繰り返される近年の日本の建築の薄っぺらさや、そこに変わらずにある日常とのかかわりなど、多層的な深さを感じました。

木村充伯は、2つあるブースに猿と熊をモチーフとした作品をそれぞれ対比するように並べました。特殊な技法で木材から毛が生えているようにしたという表面加工もユニークですが、何より飄々とした猿と熊が、憎めない不思議な魅力をもっています。猿と熊との違いは、耳があるかないかだけにしか見えないのも愛嬌です。行き交う人々にもきっと愛される作品となることでしょう。青森が北限で北海道にはいない猿と、北海道に多く棲息する熊を対比させるという着眼点はおもしろいのですが、北海道民と熊との関わりはいろいろな深い側面をもっていますので、その掘り下げがあるとさらによくなると思いました。

西松秀祐の作品は、潔いまでそぎ落とした表現だからこそ、コンセプトが明確化され伝わってくると感じました。人の流れと河の流れ、体を擦ることによって丸くなる石鹸と川の流れのなかで丸くなる小石。その類似性の発見と、この500m美術館が多くの人が歩いて通り過ぎていく場所であることとを結び付けた表現です。壁に一直線に書かれた文字を読みながら進むと、まるで作者が河原を歩いていることを追体験しているような感覚を覚えました。文章の内容に加え、文字のサイズや文章量などが入念に計算されたものなのでしょう。心地よい体験をもたらす作品となっています。