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オープニング記念展と今後の展開(500m美術館常設化検討委員会委員 吉崎元章)
2011年10月26日
札幌中心部に新たに生まれた展示スペースのオープンを飾る展覧会として、札幌を拠点に活躍する約50人の作品が前期、後期に分けて展示されます。 出品作家は、絵画、版画、彫刻、陶芸、書、写真などの各分野にわたり、年齢も25歳から88歳までと幅広いものになっています。 それは、札幌の美術の現在を広い視野からとらえ、一断面ながらもその多様性を見せるものと言えるでしょう。これほどの規模でジャンルや所属団体を横断した総合的な展覧会が公的に開かれるのは、市民ギャラリーにおいて2001年まで行われていた「さっぽろ美術展」以来、11年ぶりのことです。この「札幌大通地下ギャラリー500m美術館」を創設するにあたり、札幌市は市内の美術関係者等6名による500m美術館常設化検討委員会を組織し、目的とすべきことや展示内容、必要設備、運営体制などについて昨年度から幾度も話し合ってきました。オープニング記念展の内容及び作家選定においても、その一環としてこの委員会で検討されたものです。私もそのメンバーの一人でしたが、新たな場のお披露目的な意味合いが強いことから、より多くの市民に関心をもってもらうこと、そして様々な作品の展示を通してこの場所の使われ方の可能性を示すことも、本展を決めるうえでのねらいであったと記憶しています。50人という作家数は、「500m美術館」という名称との関係もありますが、何よりも一作家あたりの展示壁面を増やし横長の空間の特性を活かそうというところからきています。札幌に数多くいる優れた美術家、書家のなかから絞り込むことはかなり難しい作業でしたが、最終的には多彩な表現を見せることや世代的な広がりを考慮し、このような出品作家になりました。展覧会全体として札幌の厚い作家層や表現の豊かさを示すものとなっているのではないでしょうか。
このギャラリーの最大の特徴は、展示壁面が一直線に続くことです。地下鉄大通駅とバスセンター駅間の約500mをつなぐ地下コンコースは、これまで薄茶色のタイル張りの壁に電飾広告や案内表示が点在する単なる通路でしたが、その片側壁面のほどんどが白壁に置き換えられ、強化ガラスのカバーも一部設置されて、新たなアートスペースとして生まれ変わったのです。既存の諸設備及び構造上、いくつかに分断されているとはいえ、まっすぐに連続する白壁は壮観です。展示可能な壁面の長さを合わせると一般的な美術館の特別展示室に匹敵します。一方、歩行空間であるためにいくつかの規制があり、90cmまでの奥行に加え、温湿度や防犯上の問題から展示作品にもある程度制約があるのも事実です。そのため、オープニング記念展においても出品を断念した作家が何人かいました。しかし、それらを越えて余りあるほどの魅力と可能性をもった空間であることも確かなことです。この希有な空間に刺激された新しい表現も生まれてくるでしょうし、絵巻物のようにストーリーをもたせた展示も可能でしょう。
これまで往来していた平日約9000人の通行人だけではなく、ここがいかに多くの市民にとって有意義な場となり、また札幌から美術を内外に発信するひとつの拠点となっていけるかは、これからの展示の展開にすべて掛かっています。来年度以降は、年に4回程度の企画展を計画していくということですので、実験的なものを含め、様々な切り口による、ジャンルや世代、地域を問わない展覧会が次々と行われていくことでしょう。この長い壁面を有効に活用しまとまった展示内容にするためには、相当な企画力、運営力が問われます。市民にとっての作品鑑賞の場、作家の発表の場であるだけではなく、そうした人材を育成していくこともここの機能として期待されます。市内の他の文化拠点とも連動するとともに、ここでの活動や培ったノウハウなどが、今後の札幌にさまざまな側面から刺激を与えていく存在になってほしいですし、市民や作家達とともに育てていくべき場であるとも思います。